京の空に一筋の閃光が走り、そこに現れた一人の少女と二人の少年。
そして、物語は始まる・・・






◆プロローグ◆


閃光が生じた場所からほど遠くない、とある洞窟の中から
一人の男がその遠見の能力で京に起きた異変を感じていた。

「この気は・・・。そうか、あのこざかしい星の一族の元に龍神の神子と八葉が集ったか・・・。
ふんっ・・・。まあよい。龍神の神子は私が召還した者。
いずれ我が手中に収まることになろう。」

忽然と生じた異変を『龍神の神子』と『八葉』の出現であると述べたこの男こそ
この京に災いと破滅をもたらすと人々から恐れられている鬼の一族の首領、
アクラムであった。




「お館様?いかがなされました?」

妖艶なまでに美しく、しかしどこか棘のあるような女が
そう言いながらアクラムにすっと近づいた。

「シリンか・・・。ちょうどよい。
イクティダールとセフル、それにランを呼んでまいれ。」

「はっ。かしこまりました、お館様。」




幾程かして、シリンはアクラムの指示通り三人をアクラムの元に連れてきた。
片側には眼帯をし、その表情からは心情を伺うことができない目を持った落ち着いた年のころの男と、
何かに期待するかのような目を持った、まだ年端もいかない少年、
そして、そこに存在するというだけが彼女の意義でである長い黒髪が印象的な少女の、
対照的な三人だった。



「お館様。お呼びでしょうか。」

シリンと共に、アクラムの元にやってきた三人は
目の前にある主(あるじ)に対し、恭しく頭を下げた。
「どうやら、星の一族の元に龍神の神子が現れたようだ。
龍神の神子を我が手に寄せ、龍神を我が思いのままに操ることができれば
京を手中に入れることなぞ容易いこと。
すぐさま龍神の神子を手に入れて参るのだ。」

「お言葉ですが、お館様。
龍神の神子などおらなくとも
京なんてちっぽけな土地、我々の手ですぐにでも支配してみせますわ。」

そう言ってあたかも自分の存在を示すかのように一歩先んじたシリンであったが、
アクラムはその台詞を一蹴し、話を続けた。

「貴様達にはさほど期待もしておらぬ。
命じられるがままに龍神の神子を手に入れればよいのだ。」

「しかしながらお館様。龍神の神子が召還される際には
八葉という神子を守護する者が現れると聞きます。
そう簡単に神子を奪い去ることができますでしょうか。」

それまでうつむきながら黙って聞いていたイクティダールが
重々しく口を開いた。

「八葉の始末は貴様達に任せる。楽しみにしているぞ。はっはっはっは・・・・・」



そう言うと、くるりと踵を返し、アクラムは暗闇の中へと消え、
いつの間にか他の四人も姿を消していた。
そして後に残った静寂だけがこれから続く物語を静かに傍観していくこととなる。





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