◆第一章◆

(龍神の神子か・・・。おもしろい。
必ずや手に入れ、この京を意のままに操ってみせよう・・・。)

アクラムは御者を引き連れることなく、独り京の大通りを牛車で遊歩していた。
彼の目指すは神気をまとった者。
京中に溢れ、幾重にも折り重なる混沌とした気の中で
その神気がアクラムを間違えることなく、とある場所に導いた。

初めは完全に興味本位だった。
部下達に龍神の神子を捕らえるように命じたものの、
龍神の神子を一目この目で見るのも酔狂かと思い立ち、
自ら都に出ることにしたのである。




神気の源はそこにあった。
神泉苑。
京の中心に位置し、アクラムが異世界との次元を結んだ場所。

そこに一人の少女と数人の男が何かを話しあっていた。
アクラムにはその少女が龍神の神子であり、
そして周囲の男達が八葉であることをすぐさま察知した。

その少女は初めての京にとまどい、
何かあったのだろうか。
ひどく困惑し、驚き、弱々しくもありながら、
その神気だけは隠すことを恐れず、神々しいまでに輝きを放っていた。
ただ、想像よりずっと華奢で微弱な少女であることには多少驚きつつも、
その少女の持つ強いまなざしにどこか惹かれるものがあった。




すっ・・と、アクラムは少女と若者達の前に姿を現し、
その威厳を誇張するかのように重々しく口を開いた。

「フフフ、神子。私から逃れられると思っていたのか?
ここに来ることなど、とうに承知していたぞ。
己の世界へ帰るためには、ここに来るしかないからな。」

龍神の神子である『あかね』はふいに現れた仮面を付けた男におびえながらも
彼に向かって疑問を投げかけた。

「あなたはいったい誰・・・?」

「我が名はアクラム。京の輩は、我が一族を鬼と呼ぶ。金の髪と青の目・・・
京の輩とは異なる外見。京の輩にはない、不思議な力を持つ特別な一族。」

そんなアクラムの言葉にあかねはじっと耳を傾けていた。
そのとき、あかねの瞳に浮かんだ哀しみにも似た色に
初め、アクラムは自身の放った台詞への脅え、
あるいは現状に対する不安から生じ来るものだと思っていた。

これがアクラムと龍神の神子あかねとの初めての出会いであり、
それから幾度となく彼らは龍神の神子達と戦いを交えることとなる。





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