◆第三章◆
次にアクラムが水鏡に映ったあかねの瞳を見たのは
神子達が次なる札を入手するのを阻止すべく
イクティダールを神子の元へ向かわせた時だった。


「龍神の神子、よく考えてほしい。あなたにとって何が一番かを。」

イクティダールの問いかけにあかねが言葉をつまらせている様子だったが
やはりその瞳には迷いにも似た憂いの色が浮かんでいた。



(何を迷うのだ。何を憂うのだ。何にその瞳を向けるのだ。)



それまで鬼の一族を統率し、他人の心情というものは単に操る対象でしかなかった
アクラムに生じた初めての他人の心情が知りたいという衝動だった。
いったいなぜ神子はあんな表情を見せるのか。いったい何を想っているのか。
しかし、アクラム自身、すぐにそんな考えはくだらぬことと吐き捨て、
事の行く末を見守ることにした。

イクティダールにもさほど期待はしていないが、
せめて少なからぬ情報だけでも入手してもらわねば・・・。
そんな旨意を張り巡らせているとき、強い神気が再びアクラムの元まで襲ってきた。



「話し合うんじゃなかったの?暴力で話し合いを強制するなんておかしいよ!」



あかねの切言と共に再度放たれた神気は、
あかねの揺るぎない決意を示すかのようにますます輝きを帯び始めてきていた。

(ますます、ほしくなったぞ、龍神の神子よ・・・。
その力、我が為に役立てるがよい・・・。)



アクラムは、自身の渇望には気づかぬふりをして、
今はただ京を手中に収めるという宿志に向けて次の手段を講じることにした。






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