◆最終章◆
最終決戦の日。
いよいよ戦いが始まった。

朝から神泉苑に立ちこめる、強大な陰の気はあかねを始め、八葉達に重くのしかかり、
互いに傷つきながら、熾烈な争いが繰り広げられた。
そして見事、ランの操る黒麒麟に勝利し、安堵したのもつかの間。
いよいよ、アクラムがランの最後の力を使い、黒龍を召還した。



「黒龍よ、姿を現せ!我が身を供物とし、京を破壊したらしめよ!」



(龍神の神子よ、これが私の答えだ。

こうするしか我が望みを叶える力を得ることはできぬのだ。
・・・たとえ、我が身が黒龍に呑み込まれ消滅しようと・・・)


凶猛なる影が京の空を覆い被さったかと思うと、
そのまま、アクラムを包み隠し、その大いなる内へと取り込んだ。
アクラムの意識は完全に黒龍によって奪われ、
目の前で行われていたはずの戦いの意味も、自身の足かせも全て失い、
緩やかなる虚無の狭間にアクラムという存在定義が漂うのみだった。




ほんの瞬きの間だったか、それとも永遠だったか、もはや時間の概念も失ったとき、
どこからか、重く威厳ある声がアクラムの真相に語りかけた。


「お主の身は我が頂いた。お主の願いを叶えよう。」

黒龍の呼びかけは、アクラムの魂に真の願いを告げさせた。




・・・我が願いは、
      −あの者の心に触れたい。









京を手に入れるのは一体何のためだったか今になってはもうわからぬ。
一族の長たる任はもはやただの幻影。守るべきものはもうどこにもおらぬ。
ならば、一瞬でいい。お前がほしい、ただ、お前の心がほしい。



初めて私の心に立ち入った心。



いつからか我が願いは『京』を収めることではなく、
『龍神の神子』、いや、『お前の心』を我が手に入れることになっていた・・・。





      −そして、あの者と共に生きてゆきたい。










アクラムが黒龍を召還し、京が暗雲に覆われた頃、同じく、あかねは自らの力で白龍を召還していた。






「龍神を呼ぼう!あの人を守るために・・・」






それまで京の空を覆い被さっていた暗雲を凌駕する勢いでまばゆいばかりの光が放たれたかと思うと、
そのまま、白龍があかねを呑み込み、天の高みに連れ去っていた。




あかねの意識は完全に白龍によって奪われ、
目の前で行われていたはずの戦いの意味も、龍神の神子という役目も全て忘れ去り、
ただ静寂の空間があかねの姿を映し出していた。
そして、どこからか、優しく威厳ある声があかねに語りかけた。




「我が龍神の神子。お主の願いを叶えよう。」

白龍の呼びかけは、あかねの魂に真の願いを告げさせた。





・・・私の願いは、
      −あの人の心を救いたい。







ううん・・・わかってるの。救いたいなんていうのは私のエゴ。
私が勝手に好きになっただけ。
あの人の優しさに触れていたいだけ。



ずっと、ずっと一緒にいたい。
本当はこんな想い持っちゃいけないっていうのもわかってる。
でも、もう止められない。私はアクラムが好き・・・。

あの人にたった独りで犠牲は背負わせないっ!!






      −そして、あの人と共に生きてゆきたい。












二つの龍が一つになり、そして願いは一つとなった。






エピローグへ
トップへ戻る